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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)277号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、本件各決定にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて判断する。

1 第一次補正について

原明細書の特許請求の範囲の記載が事実摘示第二 二のとおりであることは当事者間に争いがなく、これによれば、出願当初の明細書に記載された本願発明は、育苗用ポツト配置板に係るものであり、右配置板には互いにほぼ平行状をなす等大容積状のポツト部が多数配され、そのポツト部に所望期間に亘り納土播種給水して苗を育て、その苗を土付苗として抜き上げ得るようにしたものであると認められるところ、原明細書(成立について争いのない甲第五号証の二)にはポツトの容積がどの程度のものであるかについては特許請求の範囲に記載がないのはもちろん、発明の詳細な説明の項にもこれを示唆するような記載を見出すことはできない。

成立について争いのない甲第八号証の二によれば、第一次補正は、別紙目録(1)の決定が認定するとおり、(小ポツトの)「容積を、育苗する苗の根の所定以上の拡散伸長を制限してその根に、前記土壌材を固結して単体の塊状とする現象を起生させることができる大きさとした」ことをその構成要件とするように補正するものであるところ、原明細書には、前説明のとおり、小ポツトの容積を「育苗する苗の根の所定以上の拡散伸長を制限し」てその根に、土壌材を固結して「単体の塊状とする現象を起生させることができる大きさ」とすることについては、何ら記載がなく、これを示唆する記載もないのであるから、第一次補正は原明細書の要旨を変更するものであるといわなければならない。

もつとも、原明細書の特許請求の範囲には、「所望期間に亘り納土播種給水し育苗し土付苗として抜き上げ得るようにし」と記載されており、その発明の詳細な説明の項には、「かくして得た苗は、……放り投げると葉が羽根の作用をし土付根元が重いためほぼ都合よく田面に突き刺さり所謂ばら播き移植をさせる事が出来る。傾斜や横たおしとなつた苗でも被覆なき土付であるため根は速やかに活着し、茎葉もやがて起立して行くものである。」(第四頁第一一行ないし第一八行)との記載があることが認められ、右記載によれば、原明細書には、ポツト内で育苗された苗の根は、移植のためにポツトから抜き上げるときには、土がついていて、いわゆる土付苗の状態になつていることが示されているものということができるが、その土付苗の状態になつていることが、ポツトの容積が根の所定以上の拡散伸長を制限する大きさであつて、苗がそれにより所定以上の拡散伸長を制限された結果のものであることは、どこにもこれを示唆するものはない。

原告は、原明細書及び図面のポツト部は、原明細書及び図面をみれば、所要数の播種により一株の水稲苗を土付状態にして、すなわち根絡みによりその中の土壌材を塊状に固結するいわゆる根鉢現象を呈する所要の容積を有するものと理解されるものであり、これらのことは、本願の出願時点において、当業者であれば原告指摘の明細書の記載内容から客観的に帰納判断できる程度のものである旨主張する。

しかしながら、ポツトで育苗される苗はすべて原告のいう根鉢現象を起し、その根鉢現象により苗が土を抱き込み、土付苗となるものであるという点についての証拠はなく、かえつて成立について争いのない甲第一三号証の一によれば、土付苗は、ポツト苗式育苗法によつてのみならず、帯苗式、連続帯苗式及びマツト苗式育苗法によつても得られることが認められるから、原明細書にポツト育苗により土付苗として抜き上げ得るようにすること及び土付苗を田面に放り投げると土付根元が重いため田面に突き刺さる旨が記載されていても、これをもつて当業者が、原明細書には、ポツトの容積が根鉢現象を起す程度に苗の根の拡散伸長を制限して、その根に土壌材を固結して単体の塊状とする現象を起生させることができる大きさであることが記載されていると理解するものということはできない。原告の主張は理由がない。

右に説明したとおりであつて、第一次補正を原明細書の要旨を変更するものであるとして却下した別紙目録(1)の決定に、これを違法として取消すべき点はない。

2 第二次補正について

成立について争いのない甲第九号証によれば、第二次補正は別紙目録(2)の決定が認定するとおり「小ポツトを、その容積を、そこに播種され育成した一株の中苗あるいは成苗の根の所定以上の拡散伸長を制限して、その根に、そのポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み現象を起生させることができる大きさとし」たことをその構成要件の一つとするように補正するものであるところ、前説明のとおり、原明細書には、小ポツトの容積を、そこで育苗される苗の根の所定以上の拡散伸長を制限して、その根に土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み現象を起生させることができる大きさとすることについては何ら記載がなく、これを示唆する記載もないのであるから、第二次補正はその点において明細書の要旨を変更するものであるといわなければならない。

そうすると別紙目録(2)の決定の認定する他の点の当否について判断するまでもなく、第二次補正は明細書の要旨を変更するものであるとして、これを却下すべきものとした右決定は正当であつて、これを取消すべきものではない。

3 第三次及び第四次補正について

成立について争いのない甲第一〇号証の二及び第一一号証によれば、第三次及び第四次補正は別紙目録(3)及び(4)の決定が認定するとおり「小ポツトの容積を、そこに播種した所要数の種籾が一株の水稲苗として成長する間にその根の拡散伸長を半ば積極的に制限して、その根に、その小ポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる大きさとする」ことをその構成要件の一つとするように補正するものであるところ、原明細書には、小ポツトの容積を、そこで育苗する苗の根の拡散伸長を半ば積極的に制限し、その根にその小ポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる大きさとすることについては何ら記載がなく、またこれを示唆する記載もなく、第三次及び第四次補正はその点において明細書の要旨を変更するものであると認むべきことは、前説明のところから明らかである。

右のとおりであるから、別紙目録(3)及び(4)の各決定が、第三次及び第四次補正が原明細書の要旨を変更するものであるとする他の点についての正当性についての判断をなすを要せずして、第三次及び第四次補正が原明細書の要旨を変更するものであるとしてこれを却下した右各決定は、これを正当として是認すべきものである。

三 よつて、本件各決定の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求をいずれも失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「育苗用ポツト配置板」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、昭和四六年一一月二四日特許出願をし、昭和五〇年六月二一日付、昭和五一年二月二〇日付で各手続補正をしたが、昭和五一年三月二七日拒絶査定を受けたので、同年六月七日これに対する審判を請求し、同時に手続補正書を提出し、右事件は特許庁昭和五一年審判第六〇二八号として審理されたところ、同年七月三〇日拒絶理由通知を受けたので、同年一〇月二〇日手続補正書を提出した。右出願は昭和五二年四月五日出願公告(特公昭五二―一二〇八四号)されたが、原告のした前記各補正は昭和五五年七月二九日に、別紙目録(1)ないし(4)のとおりこれを却下する旨の決定がなされ、その各謄本は同年八月一三日原告に送達された。

二 出願当初の明細書の特許請求の範囲

板状体1の一側面2から反対側面3の側へ、互いにほぼ平行状をなす等大容積状のポツト部4を多数配し、叙上のものをして所望期間に亘り納土播種給水し育苗し土付苗として抜き上げ得るようにし、それらの作業に耐える材質にて構成させた育苗用ポツト配置板。(別紙図面参照)

三 本件各決定理由の要点

1 別紙目録(1)の決定

昭和五〇年六月二一日付の手続補正(以下、「第一次補正」という。)は、出願当初の明細書及び図面を全部補正しようとするものであつて、その特許請求の範囲を次のとおりに補正しようとするものを含む。

「主板の下側に、その主板の上面に開口してそこより土壌材を納入できしかも有底であつて容積を、育苗する苗の根の所定以上の拡散伸長を制限してその根に、前記土壌材を固結して単体の塊状とする現象を起生させることができる大きさとした小ポツトを、多数突設して、全体的に一つの剛体としてなる播き苗用育苗器。」

第一次補正によると、本願発明は、小ポツトの容積を、育苗する苗の根の所定以上の拡散伸長を制限してその根に、前記土壌材を固結して単体の塊状とする現象を起生させることができる大きさとした点を、その必須の構成要件とするものである。

しかしながら、前記の点は、出願当初の明細書又は図面に何ら記載されておらず、また、これらの記載からみて自明な事項であるとも認められない。

したがつて、第一次補正は、当初の明細書の要旨を変更するものであり、特許法第一五九条第一項、第五三条第一項の規定により却下すべきものである。

2 別紙目録(2)の決定

昭和五一年二月二〇日付の手続補正(以下、「第二次補正」という。)は、第一次補正の全文補正明細書の発明の詳細な説明を一部補正しようとするとともに、その特許請求の範囲を次のとおりに補正しようとするものである。

「比較的肉厚で剛体をなす主板の下側に、その主板の上面に開口しかつ有底に内周面を平滑にした小ポツトを、その容積を、そこに播種され育成した一株の中苗あるいは成苗の根の所定以上の拡散伸長を制限して、その根に、そのポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み現象を起生させることができる大きさとして多数一体成型で突設し、全体的に一つの剛体としてなることを特徴とする播き水稲苗用育苗箱。」

第二次補正によると、本願発明は、<1>育苗箱の主板を比較的肉厚で剛体をなすものとした点、<2>小ポツトの容積を、そこに播種され育成した一株の中苗あるいは成苗の根の所定以上の拡散伸長を制限して、その根に、そのポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み現象を起生させることができる大きさとした点を、その必須の構成要件とするものである。

しかしながら、前記二点は、いずれも出願当初の明細書又は図面に何ら記載されておらず、また、これらの記載からみて自明な事項であるとも認められない。

したがつて、第二次補正は、当初の明細書の要旨を変更するものであり、特許法第一五九条第一項、第五三条第一項の規定により却下すべきものである。

3 別紙目録(3)の決定

昭和五一年六月七日付の手続補正(以下、「第三次補正」という。)は、明細書の全文を補正しようとするものであつて、その特許請求の範囲を次のとおりに補正しようとするものを含む。

「上面が開口し有底で内面を平滑にした小ポツトを、その容積を、そこに播種した所要数の種籾が一株の水稲苗として成長する間にその根の拡散伸長を半ば積極的に制限して、その根に、小ポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる大きさとするとともに、各小ポツトの底壁あるいはその近傍に、前記開口と比べてはるかに小さくかつ小ポツトの深さに比べてはるかに短い小孔を設けて多数一体成型で形成し、全体的には一つの剛体としてなる育苗器を用い、その各小ポツト内に土壌材を納入、播種し、所要の育苗管理を行つて、各小ポツトについて苗の根の一部を前記小孔を通じ置床土中へ伸出させるとともに、各小ポツト内において、根による前記土壌材の単体塊状固結根鉢現象を起生させたあと、成育した苗を小ポツトより抜出して、個々に分離した多数株の播き土付水稲苗をうることを特徴とする播き土付水稲苗の育苗方法。」

第三次補正によると、本願発明は、<1>小ポツトの容積を、そこに播種した所要数の種籾が一株の水稲苗として成長する間にその根の拡散伸長を半ば積極的に制限して、その根に、小ポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる大きさとした点、<2>小ポツト内において、根による土壌材の単体塊状固結根鉢現象を起生させたあと、成育した苗を小ポツトより抜出す点を、その必須の構成要件とするものである。

しかしながら、前記二点は、いずれも出願当初の明細書又は図面に何ら記載されておらず、また、これらの記載からみて自明な事項であるとも認められない。

したがつて、第三次補正は、当初の明細書の要旨を変更するものであり、特許法第一五九条第一項、第五三条第一項の規定により却下すべきものである。

4 別紙目録(4)の決定

昭和五一年一〇月二〇日付の手続補正(以下、「第四次補正」という。)は、第三次補正の全文補正明細書の発明の詳細な説明を一部補正しようとするとともに、その特許請求の範囲を次のとおりに補正しようとするものである。

「上面が開口しかつ有底の小ポツトを、その容積を、そこに播種した所要数の種籾が一株の水稲苗として成長する間にその根の拡散伸長を半ば積極的に制限して、その根に、その小ポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる大きさとするとともに、各小ポツトの底壁あるいはその近傍に、前記開口に比べてはるかに小さくかつ小ポツトの深さに比べてはるかに短い小孔を設けて他数一体成型で形成し、全体的には一つの剛体としてなる育苗ポツトを用い、その各ポツト内に土壌材を納入、播種し、所要の育苗管理を行つて、各小ポツトについて苗の根の一部を前記小孔を通じ置床土中へ伸出させるとともに、各ポツト内において、根による前記土壌材の単体塊状固結根鉢現象を起生させたあと、成育した苗を小ポツトより抜出して、個々に分離した多数株の播き土付水稲苗をうることを特徴とする播き土付水稲苗の育苗方法。」

第四次補正によると、本願発明は、<1>小ポツトの容積を、そこに播種した所要数の種籾が一株の水稲苗として成長する間にその根の拡散伸長を半ば積極的に制限して、その根に、その小ポツト内の土壌材を固結して単体の塊状とするいわゆる根絡み根鉢現象を起生させることができる大きさとした点、<2>小ポツト内において、根による土壌材の単体塊状固結根鉢現象を起生させたあと、成育した苗を小ポツトより抜出す点を、その必須の構成要件とするものである。

しかしながら、前記二点は、いずれも出願当初の明細書又は図面に何ら記載されておらず、また、これらの記載からみて自明な事項であるとも認められない。

したがつて、第四次補正は、当初の明細書の要旨を変更するものであり、特許法第一五九条第一項、第五三条第一項の規定により却下すべきものである。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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